「湘南港港湾管理事務所(通称 湘南港ヨットハウス)」Ⅱ
■2013年4月25日 初会合(第1回定例会議)
関係者打ち合わせを現場事務所で行う。ヘルム(設計事務所)、ARUP(構造設計事務所)、谷津建設(ゼネコン)、キヤマ(型枠)、堀江製罐合板所(型枠工場製作)、大相MAT(現場型枠)の5社計10名での初打ち合わせ。名刺交換のあと本題へ。完成予想模型を前にこの建築物に関しての設立背景や設計コンセプトなどを、ヘルム所長さん、ARUPのTさんより説明があった。プロジェクトの初期段階でこのような内容を聞くことができるのは、作る側にとって大きな手がかりになる。一般的に作る側は作るためだけの情報が与えられ、その情報を元にカタチを作り込んでいく。多くの場合、情報->カタチへのプロセスでいかに安価にできるかを求められるのが常だが、そこにクライアントや設計者の ”思い” が入り込む余地は無い。作る側に ”思い” をすくい取る機会は与えられない、というのが実態である。と、私は思っていた。ただ、今回の案件はちょっとイレギュラーだと感じた。作り手にもすくい取るチャンスがあると直感したのだ。
そしてこの日、現場監督さんからモックアップ作成について提案があった。カタチがカタチだけに、技術的に施工可能かどうかについて、机上だけでなく実際の施工プロセスの事前検証が必要になるとの判断だ。これは、実際に施工する我々業者にとっても、またクライアントにとっても大きな安心材料となる。モックアップを作成することで、机上の型枠設計プロセスの検証も出来、工場製作、現場施工プロセスの検証も可能となる。その後は鉄筋業者など型枠以降の現場施工についての検証も出来る。そして、その検証結果情報を関係者全員で共有することで改善策につなげることができるはずだ。いいことずくめであるが、問題はその作成期限だ。5月末には完成したいと言う。一ヶ月ちょっと。初顔合わせでいきなり、”間に合いますか?” と問われたが、”どのモデルを作成しますか?” と問い返す。実はこの時点で、モックアップを作成する施工モデルが存在していなかった。存在していたのは、意匠設計で用いられた意匠モデルと構造設計で解析に用いられた構造モデルの二つ。構造モデルがそのまま施工モデルとして利用できればそれがベストだが、その構造モデルには曲面のツナギ部分にわずかな段差が発生していた。最初にモデルを見たときに懸念していた点である。この段差をどうするのか。段差を無くすためにモデル形状を変更すれば、また構造解析プロセスに手戻りとなってしまう。一方、型枠施工者側の判断で段差を無くすことは可能ではあるが、その判断基準が曖昧となってしまう。私たちに任されるとするならば、型枠設計者に任せるか、工場製作者に任せるか、最終段階の組立職人に任せるか、しかない。しかし、誰が、どの時点で、どう判断して、どのような結果になったのかを後からトレースバックすることが出来なくなってしまう。このような難しい形状であればあるほど、カタチに対する責任の所在を曖昧にしてはならない。やはり、ベースモデル(基準となるモデル)を新たに作成するしかない。私はそのように提案した。しかし、この時点では有効な解決策が見つからず、モックアップモデルは現状の構造モデルで進めることになった。
「完成予想模型」
■2013年5月9日(木)第2回定例会議
初会合以降進めていた、モックアップの型枠設計について経過報告をする。内容(設計・施工要領)について承認をもらう。設定された日程である6月初旬のモックアップ型枠現場設置に向けオンスケジュールで進められそうだ。やはり気になるのは、ベースモデルの存在だ。構造上、構造解析モデルから最小許容寸法内でサーフェースの段差を無くし、且つ意匠上からも滑らかなサーフェースを要求される。何度も何度もシミュレーションを行いトライしてみたが、どうしても数ミリの段差が生じてしまうという。会議の中でこのまま進めようかという声もあったが、私は反対した。ベースモデルは絶対モデルでなくてはならない。すべての関係者が一つのカタチに向かえる絶対対象物がベースモデル。その方向で進めるべきだと主張した。では、どうすれば良いか。私の中にアイデアがあった。今回モデルを作成してる3DCADはRhinoceros。日本で一番このCADに精通している方にお願いすることを提案した。具体的には、長年にわたってRhinocerosの日本での販売窓口となっている株式会社アプリクラフトにお願いするというもの。もちろん、費用がかかることではあるけれど、可能な限り上流の段階でプロフェッショナルとしてのコンサルティング視点を持ち込むことが、後々の手戻りやトラブルを未然に防ぐことにつながり、結果としてトータルで大きなコストダウンにつながると思う。この件については、検討事項として受け入れていただいた。
■2013年5月22日(水)第3回定例会議
この日、モックアップ作成について具体的な日程が決まった。6月6日(木)に型枠搬入を開始して12日(水)までの完成。その当日に現場会議をモックアップ敷設現場で行うというものだ。型枠設計・型枠製作ともタイトなスケジュールとなるが、このスケジュールに合わせて進むこととなった。
前会議で提案したベースモデル作成依頼については、その方向で検討くださることとなった。これは朗報だ。
この日の会議の帰り道、堀江製罐さんの二人と私で工事の安全祈願とプロジェクトの成功をお祈りしてきた。
「江ノ島神社で安全祈願」