型枠設計

木製曲面型枠(RC屋根) 現場名:湘南港港湾管理事務所Ⅲ

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「湘南港港湾管理事務所(通称 湘南港ヨットハウス)」Ⅲ


■2013年5月28日 ベースモデル作成

第二回の打ち合わせ会議で検討課題となっていたベースモデル(構造モデルと意匠モデルを融合した実施工用モデル)作成をアプリクラフト社に依頼することが決定した。その具体的な条件は次のようなもの。
① すべての外周エッジ、開口部の精度を構造ポリゴン端点から1mm以内とする。
② その他、構造上重要な構造ポリゴン点(ARUP社指定)からも1mm以内の精度とする。
③ 意匠性を考慮したサーフェース曲率(できるだけ意匠モデルに近いように)を採用する。
④ 型枠製作における難度を考慮したサーフェース曲率と、大引きライン(支保工ライン)の連続性(曲率の連続性)を重要視する。

①~③の条件については、ARUP社、オンデザインパートナーズ社からのもの、そして④については施工側(谷津建設社、キヤマ)からの条件である。実際には上記のような条件をすべて満たすことは難しいと思われる。こちらを立てればあちらが立たずといったモグラ叩き状態になってしまうからだ。それでも①~③の条件については2mm以内に納めることで合格となった。問題は④の施工側の条件がなかなか乗り越えられない。十数回のチェックバックを行って、施工可能なサーフェースが生み出された。難産の末にようやく生み出されたというものだが、ここは簡単に妥協してはいけないという思いがあった。実際に現場で手を掛けて作るのはそれぞれ担当する職人さんたちであり、彼らの顔を思い浮かべながら施工者側の立場を粘り強く主張しなければ代理者として存在する意味がない。また一方で、そのような主張を一方的に受け入れるだけではなく取捨選択してベストマッチング(落としどころ)を探り当てる相手側の立場も尊重しなければ事は進まない。それも限られた時間の中で成果が求められる。アプリクラフト社側は出来ることと出来ないことの状況判断が速い、と感じた。それこそがプロフェッショナル。結果、条件をほぼクリアして完成。アプリクラフト社にお願いしたのはやっぱり正解だった。

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「ベースモデル」 CADイメージ

■2013年6月4日 施工モデル作成
実は、出来上がったベースモデルはまだ第一段階。庇の延長部モデルが第二段階、開口部モデルが第三段階と役物(ヤクモノ)モデルを付加していかなければ実施工モデルとしては使用できない。様々な経緯を経てキヤマが作成を担当することになった。ベースモデル完成まで行き着く経過も知り型枠のことも理解している者が担当するのは妥当ではある(客観的に)。が、重責である。時間との勝負、とにかく受けることにした。これらのモデルは、外周部や各開口部の張り出しと開口部室内側の呑み込みを曲率を損なわずに作る必要がある。且つ意匠性を損ねてはいけない。ひとつ、着手前に明確なルールを設けた。それは、”ベースモデルに対して一切加工編集を行わない” というもの。理由は、”変位”。一連のモデルを扱う中で、サーフェースは生き物のように変位するということに気がついていた。特にモデルに対し加工編集を行った時にそのリスクが高くなる。併せてCADデータのフォーマット変換を行うことでそのリスクが掛け合わせで高くなることも分かっていた。どちらにしても専門業者内でデータ共有を行うことを考慮すると、このリスクは受け入れられない。唯一の選択肢が上記の ”触れない” ことである。それでもフォーマット変換時のリスクは完全には払拭できない。更に ”変位” 現象の有無をチェックするプロセス(トラップ)をルールに取り入れた。今回は、CAD内での自動プログラムチェックとマンパワーチェックのダブルトラップ。具体的には、完成サーフェースにおける特定グリッドの高さ(Z値)寸法を平面図にプロット(プログラムによる)し、プリントアウト。これをフォーマット変換のビフォー・アフターで目視比較するのだ。一見無駄とも思える膨大なこのルーチンワークに意味があることに気がついたのは相当な時間を費やしたあとだった。トラップに引っ掛かったのだ。人的センサーというのは単一センサーと違って俯瞰した目を持つことが出来るため様々な複合センサーが機能する。単一センサーのみではすり抜けてしまっていたものを捉えるコトが出来たのはその複合機能があったからこそ。根気のいる作業であるが、その時に複合機能センサー(人の目)の有効性を改めて知った。そして、この絶対ルールの下でベースモデルと役物モデルを合体した一体モデルを作成し、”施工モデル”として位置付けた。実は、この ”施工モデル” がプロジェクト初期に存在することに重要な意味がある。特に施工者側の様々な要素が反映されたモデルを早期に作成することが肝要となる。そのためには、設計者・施工者ともオープンな姿勢と実施工者(現場、工場に直接携わる技術者達)からの意見を積極的に受け入れる柔軟さが必要。また、技術者側のデジタルモデルについての知識・スキルが高ければ融合がより高度に進む。(<- これすごく重要!)ここが難点ではあるが、今後の3D建築実現化の鍵になっていく気がしている。そして出来上がった”施工モデル”イメージは次のようなもの。

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「施工モデル」 コンクリートイメージ


木製曲面型枠(RC屋根) 現場名:湘南港港湾管理事務所Ⅳ につづく

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